風の悪戯

序章
  時が止まったかのように静かな村、小川が静かに流れ、風が気持ちいい。確かにこんなところにいると、都会の多忙なあの時間を忘れられる気がする。何もかも、時間という見えないものに縛られ、苦しめられる。そんなものからの開放だったはず。ある男が後から来るまでは。

 そう、あの男が来るまでは・・・

本編  静かな町  マーキュリー

風が吹く、青い空の下に、
そんな時、彼のことを思い出す。
あの哀しみに満ちた瞳を、
今、彼はどこにいるのだろうか。

図書館での静かなひと時、私はここで過ごすのが大好き。誰にも邪魔されず、本の中で自分だけの世界を築き上げる。それは誰も知ることのできない自分だけのもの。今、私はそんな気持ちでいる。
「もうそろそろ閉館です。本を借りたい人は早めにお願いします。」
私は、今まで読んでいた本を閉じ、受付に持って行き、カードと本を渡した。
「スピネッラ・コニスさん、まだ、返していただいていない本がありますね」
「すみません、次回一緒に返しますから。」
「お願いしますよ。」
本を借り帰るとき、突然、強風が私を襲った。私は目を閉じ、砂が目に入らないようにした。風は一瞬のように思えるほどだった。風がやむと一人の男が町の奥にいた。それ以後、彼を見ることはなかった。しかし、この時を境に騒ぎが起こるようになった。

「また、行方不明者が出たぞ。」
「またか、今月に入ってまだ十日しかたっていないというのに、もう六人目だ。なぜこんなに行方不明者が出る。しかも全員若い娘と来たものだ。」
「わからねぇ、ただ前にこの町に奇妙な男が来たらしい」
「じゃ、お前さんはその男を探し出せ。いいな。」


町では、事件が起こるようになり、すぐに自警団が組織されこの事件をあたるようになった。でも、被害者は増えるばかり、一向に解決には進まない。
目撃者がいないのもその1つだ。一社に歩いていたある人は、突然風が吹いたとたんに、友達がいなくなっていたと言っている。一体どうなっているのだろう。私が見たあの男性は、何者?そう考えながら私は図書館の窓から外を眺めた。やはり、自警団のしるしである袖に、白い腕章が入った青色の服を着た男の人がいる。
「ま、考えても仕方がないわね。私にはどうすることもできないし。」
私はそう、小声で言ってまた本を読もうとしたが、
「ぐぅ・・・ぐぅ・・・・ぐぅ・・・・・」
隣でいびきをかいている男性がいた。後姿からして、男は20才ぐらい。白いシャツを着ていた。また、椅子には赤い服がかけてある。私は、せっかくの気分を台無しにされたような気がした。私は少し怒ったような口調で男の人に声をかけた。
「ちょっと、すみません。ここで寝ないでください。」
「あ〜ぁ。よく寝た。おっと、すみません、お嬢さん。」
男は寝ぼけた顔で答えた。
「まったく、ちょっとは周りの人のことを考えてくださいよね。ここにいる人は、みんな本を読みたくて来ているんですから。どうせ、あなたのような人は本 なんか、読まないんでしょうけどね。
そういって皮肉を込めて言いながら彼の机を見た。そこにはここの町の歴史書や過去の遺跡についての本があった。
「あなた、何か宝物でも探しているわけ?」
「あ、これ。まぁ、宝物ってほどのものじゃないけど・・・」
と、男は答えようとした瞬間、自警団の人達が入ってきて、すぐさま男を取り囲んだ。
「お前だな、つい最近この町に来た男というのは?私は、第三小隊長ハルスだ。お前をこの町の条例第一〇三によりお前を連行する。」
「やっぱなぁ、いやな予感してたんだよ。」
というと、男は椅子にかけていた服をゆっくり取ると、次の瞬間、軽く跳躍し、自警団の頭上を飛び越え二階のほうに走っていった。まるで風のように。
「やはり、あいつだったか。しかし、二階の方に行っては袋の鼠。」
すぐに自警団が追いかけた。私も彼を追いかけることにした。
しかし、私が二階に到着すると、彼の姿はなくテラスのところで自警団が話をしている。
「あの野郎、ここから飛び降りて逃げやがった。いいか、今ここで班を三つに分ける。 一つは、スポデュデノスを班長にパイ、ローブ、クンツァで町の東の川に、もう一つはコルバトを班長にスノー、フレーク、ウィールで町の南側を、後残りは俺と一緒に町の入り口に行く。いいな、やつをここで捕まえるんだ。なんとしてもな。」
そういうと自警団の人達は、図書館を後にした。
「本当に、ここから飛び降りたのかしら。」
 私は不思議に思いながらテラスから下を見た。ここの図書館は、一階が書庫になっており、天井の高さが普通の家の二階ぐらいある。つまり彼がもしここから飛び降りたとしたならば、三階の高さから飛び降りたとことになる。普通の人間ならば、骨折ぐらいは、するだろう。
 私は、読んでいた本をとりに図書館の机のほうに行った。彼が読んでいた本が、まだそのままになっている。私は、彼が座っていたところに腰をかけ た。
「不思議な人。」
彼の読んでいた本を手にとりながら私はそう思った。すると、本の下に地図があった。地図はこの町のものだった。地図には色々と書き込んである。
その中に六ヶ所、赤でラ印が打ってある。確かなことは言えないが、おそらく今日の自警団のことから行方不明者が出たと思われる場所なのだろう。
また、赤で印がついているほかに黒色で一箇所だけ印がついている。きっと次の行方不明者が出る場所なのだろう。私は、この地図を自警団に渡すべきだと思った。私だってもう、こんな事件は、おこってほしくない。あの平和な、ひと時が好きだから。だから、私はすぐに図書館をあとにしようとしたが、出たとたん何者かに口をふさがれ図書館の裏に連れ込まれた。
「頼むで静かにしてくれよ。」
声からして男のように思えた。私は怖くてうなずく事しかできなかった。男はうなずいたのを確認すると、そっと口元から手を離した。私はすぐさま振り返った。赤いコートの中に白いシャツが見えた。男の顔をよく見るとさっき図書館であったあの男だった。私は大声で叫ぼうとしたが、男が再び私の口元を抑えながら言った。
「わるいけどちょっと、静かにしてくれるかな。」
彼は微笑みながら言った。ある意味不気味でもあった。
「まずは先に、ごめん。こわかっただろう。でも、あんたにしか頼むことできないし。」
「いったいなんなのよ。第一、あなた何者?わけのわからない人に物を頼まれるなんて、できないわ。名前ぐらい教えなさいよ。」
「名前ねぇ。」
男はそういいながら頭を掻いた。
「名前は、セリュー・レウス・ムーン。まぁ、風の悪戯にまかせて旅をしている、ってとこかな。」
「じゃ、あなたはこの町で起こっている事件の犯人なの?」
「あぁ、町ではやっている神隠しのことか。残念ながら自分のせいじゃない。でも・・・すこしぐらい・・・。」
「少しぐらいなによ。」
「いゃ、気にしないでくれ。まぁ、この事件の容疑者になっているんだろ。」
「そうみたいね。」
「やっぱし。しかたねぇか。ところで本題に入ってもいいかな?」
「どうぞ。」
「いやね、図書館に忘れてきた地図を持ってきてほしいんだが・・・ダメ?」
「これのこと」
そういって、私はかばんの中から地図を取り出した。
「それだ。ありがとぅ」
男は地図に手を伸ばしたが私はすぐに後ろに隠した。
「何するんだよ。」
「地図渡す前にちょっとこっちの頼みも聞いてもらえるかな?そしたら地図を渡してあげる。」
「何すればいい。」
「えっと、夜の十時にここの町の中央にある、あの大きな時計台の上に来て。そうすれば、地図は返してあげる。」
「それだけ?それなら今でもいいでしょ。」
「ダメ。返さないよ。」
「わかったよ。じゃ、十時に時計台の屋上に。」

そういって男は去っていった。

PM十時 時計台屋上
私は少し遅れて時計台に向かった。すでに辺りは暗くなっており、月の明かりが、きれいに町を照らしていた。私が時計台についたのは約束の時間から十分遅れてのことだった。時計台にはあの男が窓から外を見ながら待っていた。
「十分も遅れている。早く渡してくれないか。こっちには時間がない。」
「そうね、もうそろそろかしら。」
「なにが・・・」
私が合図を送ると、いっせいに物陰から自警団の制服を来た男が出て来た。
「ごめんなさいね、一応私も自警団の第五小隊の隊長なの。」
「またかよ。いい加減にしてくれ。犯人は、自分じゃない。」
「そのことは、本部で聞きます。おとなしく縄につきなさい。」

そういうと、男を窓のところまで追い詰めた。

「きゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ。」

突然、若い女性の叫び声がした。
「くそ、こんなとことで油売っていたのが間違いだった。」
男はそう言うと、窓のところから飛び降りた。私は、あっけにとられていたが、すぐに我に返って指示を出した。

「いい、今夜中にけりをつけるわよ。チュリンの班は町の東門を押さえて。アステリズムの班は、逆の西門をいい、誰一人、通しちゃだめ。いい。それじゃすぐに場所について。私の班は、現場に急ぐわよ。」

私は、ふと窓の下を眺めた。
「ここから飛び降りるなんて・・・・・」

私は現場に向かいながら考えていた。今回の事件は、昔に読んだ本の内容に似すぎている。いったい何が起こっているというの。でも、いくら考えても何の本だったかは、思い出せない。そうこう考えているうちに現場に着いた。現場には第一小隊と、第四小隊が来ていた。第一小隊長は、背が高く、青い髪を後ろで束ねている。また、第四小隊長は、右側の額に傷があり、また相変わらず制服を着崩している。
「今回は、一体なんですか。やはり神隠しですか、クラウン第一小隊長。」
「あぁ、こんかも若い女性だ。今回はそれだけじゃない。あれを見ろ。」
と、クラウンが噴水の方を指した。

十二のサファイヤが漆黒の闇を見つめ上げる時
九つのクリスタルが哀しみから大粒の涙を流す
四つのルビーがその全ての哀しみの涙をあつめ
一つのダイヤが全ての涙を心に受け取るだろう
さすれば我、再び、この世の道しるべとなろう


「これは一体・・・」
「おそらく、犯人が示した暗号だろう。初めの数字十二、九、四までの意味は分かるのだか、後の意味が分からない。おそらく十二とは時計台の数字、これは文字盤なのかそれとも直接十二時を意味するのかは分からない。次の九だが、今までの事件のことを暗示しているのならば、九人の娘を意味するのだろう。つまり今日で七人目だから後、二人神隠しに会う。次に最後の四だが、これはこの町の門つまり、東西南北にある各門のことだろう。俺にわかるのはここまでだ。」

「まだあるぜ。漆黒を意味するのは夜つまり今日のような夜中ということ。また、哀しみというのは、娘がさらわれること。涙は道しるべつまり、今まで、さらわれてきたむ娘の場所のこと、これは帰ってみなければ分からないがな。後は、涙をあつめるって事だから、門のところに娘達がいるってことで、そして、最後の一は、犯人のアジトで、集めるの意味が娘をそこに集めるってことだろうぜ。きっと。」
そう、途中から第四小隊長バリッシャーが横から口を挟んだ。
「でもなんか最後のほう変じゃない。」
「どこが。」
「涙が道しるべってこと。その後あなた、涙を集めることを娘が集まるってことにしてるんだもの。涙自身が、娘のことみたいじゃないの。」
「うるせぇ。じゃ、お前はどうなんだよ。」
「それは・・・」
「もう二人ともやめないか。一応、バリッシャー第四小隊長が推理したように明日から、各小隊から班を出し合い町の門に待機させ、不審者がいないか調べよう。」
「はい」
「それともう一つ、今のうちに聞き込みをすることを忘れずに。あと、コニス第五小隊長は、跡で私の部屋に来るように。」
「了解しました。」
「では、解散。」


「では、コニス第五小隊長。なぜ、現場に着くのが遅れたか聞きましょう。」
「はい、今日の夜十時に時計台で容疑者の男を逮捕しようと罠をかけました。しかし、接触したとたん悲鳴がなり、男はそのまま逃走しました。また、その男はこの地図を持っていました。」
「そうですか。分かりました。」
そういうと、クラウンは、地図を受け取りそれを眺めた。
「やはり、容疑者リストからはずすことはできませんね。全ての印が行方不明現場となっている。」
「やっぱり。」
「おそらく犯人は複数いることでしょう。」
「でも、もし複数いるんでしたら私たちの情報網に少しぐらいかかってもいいと思いません?」
「そこなんですよ。私が前から気にかかっていたことは。なんといってもこの事件、犯人の影があまりにもなさ過ぎる。」
そういうとクラウンは、黙り込んでしまった。こうなるとクラウンは、なかなか話さない。そこで、
「私は何をすればいいですか?」
「あぁ、ごめん。君にはあの男を追ってくれ。何か知っているかも知れん。」
「分かりました。」
私は、そういってクラウンの部屋を後にした。部屋の外にはバリッシャーがいた。
「どおだったよ。コニス第五小隊長。降格処分でもくらったか。」
「おあいにく様。私はそんなに簡単に降格処分なんかもらいませんよ。」
そう言って私は本部をあとにした。

数日後、そう、八人目の被害者が出たあとだった。よりによって休日に彼と出会うなんて。
「よっ、第五小隊長さん。」
「あなたは、セリュー・レウス・ムーン。」
と、あの男は木の上から声をかけてきた。
「覚えていてくれて、うれいな。でも、今日はそんなことじゃない。あんたに聞きたいことがある。この前、噴水に書かれていた内容、教えてくれ。俺の位置からじゃ、よく見えなかったんだ。」
「あなた、あの場所にいたの。」
「まあね、だから教えて。」
「いやよ。」
「まっ、そんな事言わずに。」
と、いいながら、彼は私のポケットからあの文が書かれた紙を取った。
「なになに。『十二のサファイヤが漆黒の闇を見つめ上げる時、九つのクリスタルが哀しみから大粒の涙を流す、四つのルビーがその全ての哀しみの涙をあつめ、一つのダイヤが全ての涙を心に受け取るだろう、さすれば我、再び、この世の道しるべとなろう』なるほどねぇ。」
「どうせ、あなたには分からないでしょうね。」
「なぁに、簡単だよ。これは俺の専門だから。」
「えっ。」
「詳しいことは今はいえないが、ここに書いてある内容なら教えてやるよ。」
「本当に。」
「あぁ、でも、あんたが知っても何もすることができないけどね。」
「どういうことよ。」
「文字通りの意味。あんたが知ってもこの事件は、解決できない。」
「なぜ。」
「あんた、『インタリオ』(浮き沈みの彫刻)って本知っているか。」
「えぇ、知っているわ。それがなによ。」
「その本の中に出て来る『タンザナイト』って言う宝石が出て来るだろ。」
「えぇ、確かある彫刻家が封印されていた遺跡から発掘した魔力を秘めた宝石を加工し、その宝石で首飾りを作るという話でしょ。」
「そう、しかし、その石には人の野心が込められていたんだ。そのチョーカーの危険性を知った彫刻家は、そのチョーカーを封印してしまったんだ。」
「でも、それと今の事件、何が関係しているの?」
「まぁ、それを知りたければ九人目の被害者が出た時、時計台のところに来れば分かるよ。おそらく後、一つのはずだから。」

九人目の被害者がでてしまった。私は彼に言われたとおりに、時計台にむかっている。
「よ、コニスさん。」
となりを見るとあの男がいる。
「あなた、なぜ私の名前知っているの。」
「あぁ、あの紙に書いてあった。第五小隊長コニス殿って。」
「あぁ・・・。」
「どうしたの。」
「あきれているのよ。それより、どうして時計台に向かう必要あるのよ。」
「どうしてって、あんなにヒントあげたのにまだ分からないの?」
「ヒントっていっても一つじゃない。しかも、『インタリオ』っていう本の名前だけ。説明してよ。」
「なぁに、簡単なこと。まず一行目の、
『十二のサファイヤが漆黒の闇を見つめ上げる時』についてだけど、一二のサファイヤとは、あの本の中に出てく る彫刻家が首飾りを封印するために作った一二個のアクセサリー。つまり、九個のチョーカーと、三つの指輪。ちなみに、このアクセサリーは実在するアクセサリーなんだ。」
「ちょっとまって、つまり娘たちは、その『インタリオ』にでてくる封印のためのアクセサリーを身に着けていたから、さらわれたって言うの?」
「あぁ。そして、もう一度話を戻すけど、漆黒の闇を見上げとは、月の出ない新月の夜の十二時。」
「なんで十二時なのよ。」
「見上げるってあるだろ。あれは、時計の短針と、長針が上を向くのが一二時だからだよ。」
「じゃぁ、続きの『九つのクリスタルが哀しみから大粒の涙を流す』は?」
「これについては、実際に見てもらったほうが早いな。もう、時計台についたことだし。」

ほんとに、そうこう話しているうちに時計台についてしまった。私は彼の言われるままについていく事しかできなかった。ほんとに彼の言われた、何もすることができないという意味が分かったような気がした。そして、時計台の歯車がある機械室のところまで来てしまった。すると、彼は、突然、しゃがみこんで床を軽くたたき始めた。
「えぇっと・・・このあたりかな。」
彼は、そういうと時計台の一部の床をはがし始めた。そこには鍵がかかった扉が、あった。
「鍵がかかっているわね。」
「悪いけど、少し後ろ向いていてくれるかな。ここからは、企業秘密だから。」
私は仕方がなく後ろを向いた。うしろで、なにやら物音がする。
「よし、あいた。もう、こっち向いていいよ。」
「ここから先、何があるの?」
「封印さ。『タンザナイト』の。」
「だって、あれは、おとぎ話のはず。実在しないでしょ。だいたい魔力なんて・・・」
「とにかく、おりながら話そう。時間がない。」

私と彼はすぐに階段をおり始めた。
「いいかい、あの話はね、まだ続きがあるんだ。簡単に話すと、続きはこうなっている。ある国の王がその彫刻家に時計台の針を彫刻
してくれるように頼んだんだ。その彫刻家は、封印の場所に困っていて、王にその封印の場所として時計台を使わしてもらうことを条件にしたんだ。しかし、王はそのチョーカーに心を奪われ工事の最終日に、こっそりとりに行ってしまったんだ。その時、彫刻家は、作っていた針が遅れていたので最後の仕上げをするために時計台に残っていたんだ。でも、彫刻家は、王がチョーカーを取ろうといてるのにきずき、すぐに封印してしまったんだ。当然、王がいなくなった町は、寂れてしまい廃虚と化す。でも、時計台だけはきれいに残っており、また人が住むようになり町となった。分かるかい、この最後に町になった 場所はここなんだ。」
「じゃぁ、何。ここに、その『タンザナイト』があるの。」
「あぁ。」
話が終わると、私たちは広い部屋に出た。十二時にはあと三分ほどある。
「見てごらん天井と床を。」
天井には八つのチョーカーがぶら下がっており、また、薄いすり鉢状になっている床には、三つの指輪が埋まっている。そして指輪の中央にはきれいな青い石がはめ込んである。
「まさか、そんな。」
「あぁ、『九つのクリスタルが哀しみから大粒の涙を流す』とは、九つのチョーカーがこの時計台にためられた涙である光が反射して下の指輪に集まること。」
「でも光って・・・わかった。この町にある東西南北にあるもんの見張りの炎のことね。つまり、三行目の『四つのルビーがその全ての哀しみの涙をあつめ』とは、光がこの時計台に集まることね。」
「そう、で四行目の『一つのダイヤが全ての涙を心に受け取るだろう』とは、この中央にある宝石にあつまること、そして最後の『さすれば我、再び、この世の道しるべとなろう』は、我とは『タンザナイト』のことで、道しるべとは野心を広めることをいみする。」
「なぜ『再び、この世の道しるべとなろう』って書いてあるの?」
「つまり、前に話した続きにあった、王がいなくなり滅びたこように、この町も滅ぼすということなんだ。」
「でも誰が。」
「一人いるでしょ。そう、そのこかげから俺らを見ている自衛団第一小隊長クラウン。」
「なんで第一隊長がここに。」
「こいつに聞いたって無駄さ、多分『タンザナイト』に操られているんだ。今の彼には言葉は通じない。」

そういって彼は私の前に立った。
「悪いが、『タンザナイト』 責任をもって破壊させてもらう。その前にまず、お前をしばしの間、封印する。」
そういって、彼はクラウンに向かって歩き出したとたん、クラウンは、彼に向かって剣を抜いて、彼に切りかかった。彼は横に避けたが、すぐに、なぎ払いに切り替えた。彼はコートの後ろに持っていた銃を抜いて受け止めた。いやな金属音がこだまする。すると、両者間合いを取るように離れた。するとクラウンは話し始めた。
「ひさしぶりだな、セリュー・レウス・ムーン。」
「あぁ、『タンザナイト』いゃ、ラズリ・ノーラといったほうが良いかな。」
「どちらでも良いさ。しかし、我が長年の恨み晴らさしてもらう。」
「こっちも、いい加減けりつけようと思っていたところだよ。」
「行くぞ」
ふただび、お互いの間合いが詰まる。何で銃を持っているのに発砲しないのだろう。
「なぜ、その銃で発砲しない。あの時のように。」
「もう、あのような哀しみは、もうたくさんだ。」
「そうかい、じゃぁ、死にな。」
そういうと、一瞬ラズリは、彼から離れた。そして、剣を右斜めに構えた。あの構は、クラウンの特技である『風舞』に似ている。そう思った次の瞬間、ラズリは一気に間合いを詰めて切りかかった。彼の肩から、血が吹き出る。
「もう一度忠告する。甘いことを言うなよ。死にたくなければ、容赦なく俺を殺すんだな。そうしないと、お前の未来は、死のみだ。」
「そうだな。これで終わりにするさ。」
そういって彼は銃を構えた。
「さぁ、こい。たとえ、この体は借り物に過ぎない。私は永遠に死なないからな。これからも、お前に苦しみを与え続けよう。それが我が現世に誕生し、それを生み出したお前の呪い、永遠に繰り返される死の悲しみという連鎖だ。再び、人の死をもって我に力を与えよ。
彼はトリガーを引いた。するとラズリは次の瞬間、壁に固定されてしまった。
「これは一体、体が動かない。」
「お前のために俺が作り上げた銃、『ウィド・テーナ』。対象の人を一人だけ固定できる代物だ。」
そういって彼はラズリに近づき、そしてラズリからチョーカーを取った。かれは、そのチョーカーを天井に向かって投げた。すると、きれいに天井にあったチョーカーが並んで光がこの部屋にさしこんだ。そしてチョーカーの光が指輪に集まり真ん中にあった宝石に集まる。そして、宝石は再び天井に向かって光を伸ばした。
「きれい」
私はその風景をこのようにしか表現できなかった。まるでおとぎ話の中の一ページのようであった。天井には一つの宝石が浮き出てきた。
「さらばだな、ラズリ・ノーラ。」
「や、やめろ〜」
そういって、彼は、別の拳銃をとりだし、銃口を天井に向けて撃った。
「おのれ、彫刻家の分際で・・・」
ラズリは最後にこう、言ったような気がした。

終章
 あの事件からしばらくして神隠しにあった少女たちは、無事に帰ってきた。どうやら彼女たちは時計台の地下室に閉じ込められていたらしい。また、第一小隊長クラウンは、宝石に操られていたことが証明され除隊だけですんだ。
「あぁ、やっと平和な時間がもどって来た感じがする。」
「そうだね。」
彼は優しく私に微笑んだ。
「ラズリが最後に言った言葉からして、あなた、本当はあの本の彫刻家じゃないの?」

「・・・あぁ。この世にあの恐ろしい宝石を送り出してしまった張本人だ。あの宝石のせいで、昔の都市ヘンデンベルグは、滅びてしまった。また、その都市の王でもあり俺の親友でもあったラズリ・ノーライトを、この手にかけてしまうことにもなってしまったんだからなぁ。」
そのときの彼の目は哀しみで、満ちているように思えた。
「でもなんで、昔の人間であるあなたが今生きているのよ。」
「まぁ、一種の呪いかな。さてと、俺はもうこの町を去るよ。」
「なんで・・・」
「なんでだって、それは、この呪いのせいで風の悪戯にあうんだから。」
彼が去った後には、静かな町と青く澄み切った空と、さわやかな風が広がっていた。

風が吹く、青い空の下に、
そんな時、彼のことを思い出す。
あの哀しみに満ちた瞳を、
 今、彼はどこにいるのだろうか。