
第二話
闇夜の中を蒸気機関の音が激しくこだまする。
蒸気とともに褐色の大型の帆をつけた飛行船が飛んでいた。
軍用の飛行船だ。
男は、飛行船の中の牢に閉じ込められていた。
忍び込んだ軍施設の中で極秘情報として収められた場所に気絶して倒れていたところを発見され、そのままつかまったのだった。
男の両手は壁の鎖につながれていた。まだ意識ははっきりとしていない。
「お・・・・・れは・・・・・いつ・・・・・た・・・・・い」
まだ、倒れた影響か、うまく話せない。
「気がついたか。新入りさん」
近くで誰かが声をかけている。
「少し落ち着くまでじっとしていたほうがいいよ。ここに入れられたということは、睡眠薬を打たれているはずだから」
男は顔を前に向けた。だんだん視界がはっきりしていく。
「ここはいったいどこだ」
男は同室にいた男に聞いた。黒いズボンに黒いシャツ。髪の毛は赤色をしていた。男は片方の足を伸ばした状態で座っていた。
「まぁ、まずは自己紹介をしたほうがいいかな。しばらくの間一緒にいるわけだし。君はしばらく、落ち着くまで話さないほうがいい。僕の名前は、ヴィター・アンガス。アンガスとでも呼んでくれ。ここは、軍船『モルゲイツ』の中にある牢だ。俺は、まぁ、色々あって捕まってしまったんだがな。元々は彫金師をしている。この船はね、帝国の首都『ラフロイグ』に向かっているんだよ。まぁ、これから僕たちが待ってるのは審問というわけだ。当分は空の旅だから、しばらく寝ているといい。」
アンガスはそのまま、両手を頭の後ろで組んで目を閉じた。
操舵室に3人の軍人が中に入って行く。一人は他の男たちは黒い色の軍服を着ているのに対して、その男は紺色の服を着ていた。おそらく階級が上なのだろう。
「艦長はいるか」
紺色の軍服を着た男が声をあげる。
「艦長室にただいまおります。今からご案内いたします。」
中にいた操舵士の一人が敬礼して答えた。
「こちらへどうぞ」
そういうと、操舵士は軍服を着た男たちを案内した。
部屋の中には、あの洞窟にいた白服のスーツを着た女性が眼鏡をかけて資料を読んでいた。
女性は中に入ってきた人に気がつくと立って敬礼をした。そして席を紺色の服を着た男に譲って机の前に起立した。
「おしさしぶりです。フォサー・ライノス提督」
「あぁ。」
そういうと は両足を机の上に乗せて話はじめた。
「今日きたのは、5年前に壊滅した砦「グランド・グリア」の守護隊『紅い山狐』の第4小隊長の『ティルス・ジェスト』の所在について聞きにきた。あれから少しは進展があったんだろうな。」
はしばらくの沈黙のあとに口を開きはじめた。
「あまり進展はありませんが、柄の部分に描かれた、三本の爪の文様がある刀剣を所持した男を捕らえてあります。三本の爪の文様は守護隊のマークですから、なんらかの接点があると思われます。帝都についてからじっくりと調査する予定であります。」
「そうか、尋問は帝都に着く前からこの船で早く行うように。帝都についたら私もその者に会うとしよう。セリサ・ルーシス君」
「君はいつまでもここにいる気はないでしょ」
アンガスは不気味な笑みを浮かべながら話かけてきた。
「あぁ」
「じゃぁ決まりだ、一緒に脱走しないか」
アンガスは唐突に用件を切り出した。
「どうやって脱出するというんだ。第一俺は鎖につながれている」
「そんなもん僕に任せろって」
アンガスはそういうと。胸をたたいた。口の中から一つの指輪がでてきた。
「汚いとかいうなよ。こういうことは、あらかじめ準備しておくもんだから。」
そういうとアンガスは指輪をはめた。
「そういえば、君の名前は。」
「『ティラン・レグスル』だ」
「君は多分ある程度は知ってるとおもうが、幻燈師のおとぎ話を知ってるかい」
「剣 銃 弓 格 幻のうちどれか一つを極めた者とというぐらいしか。ただの伝説だろ」
「まぁ、簡単に言うとそうだが、実は奥が深いのだよ。『煌玉』を用いて、その属性を最大限に引き出し、自分の技術とあわせて使用する。いわゆるスキル的なものだ。これから見せるのも一つの技。この『風牙の人形師』がひとつ技を見せましょう」
そういうともアンガスは指輪をはめた手を前に差し出す。
「清風よ 集いて束とり 呼びかけに答え 姿現し 疾風の牙とならん 全てを咬み砕け 『風の妖狼』」
そういうと、突風とともにアンガスの足元に薄い翡翠の色をした狼の人形が突如出現した。
「幻を極めた者に使うことができる一種の召喚術。俺の場合、媒体となるものと風により、人形を作り出すことができる能力だ。ちなみに媒体は何でもいい。藁でもいいし、石でもいい、時には自分の髪の毛でもいい」
そういうと、アンガスはその人形の牙で鎖を噛み砕いた。
「これであんたは自由だ。まずはここから脱出するぞ」
アンガスは手で狼に指示を出す。
狼は一瞬のうちに檻の向こう側に移動していた。
カラン
檻は鋭い刃によって切られたかのように、切れてその場に落ちた。
「さてと、まずは君の装備を整えるのが先だね。どこかに保管されているはずだから」
そういうとアンガスは歩きだし、牢を後にした
「まぁ、こいういうところの場合は近くの保管庫のような場所においてあることが多いのだが・・・」
アンガスは壁にかけてあった鍵を手にして歩きだした。そしてひとつの頑丈そうな扉の前に立った。そして、のぞき窓から中をのぞいて見る。武器が大量に保管してあるのが見えた。
「ここみたいだね」
アンガスはそういうと、鍵を開けて中に入った。
中には大量の剣や銃器がおいてあった。
ティランはその中のひとつの剣を手にとった。身の丈ほどの片刃の大刀。鍔の部分には3本の傷が入っている。
「ち、やっぱし抜かれていやがる」
ティランは刀剣を見ながらつぶやいた。
「俺の『煌玉』が抜かれていがる。どこいった」
ティランはあたりをみわたすがやはりない。
「まぁ、『煌玉』はレア中のレア。まず捕まったら採られるよ」
「ちくしょぅ、久しぶりの大物だったのにな」
ティランは刀剣と一緒にあった自分の紅いコートを羽織った。アンガスはというと、自分の持ち物をみつけたらしく、道着のような服を羽織った。腰のあたりからはしたに垂れた布がでていた。
「さてと、まずはお互いの『煌玉』を取り返してから脱出しますかね」
警報の音が艦内で鳴り響いている。
アンガスとティランは物陰に隠れながら、自分たちの『煌玉』を捜している。
「どこにやったんだ」
ティランは小言を発しながらあたりを警戒している。手には刀剣が握られている。
「やっぱ、珍しいものですからねぇ。ここの艦長クラスの人がもっていてもおかしくはないですね」
アンガスはそういいながら、かがみこみ何やら作業を始めた。
「おい、何をやってるんだ」
「いやぁ、警報がなって厳しくなってきたから、少しでかい騒ぎを起こそうかとおもってね」
そういうとアンガスは爆弾をセットしていた。
「そこまでするか。普通」
「早い話がね、優先順位があるでしょ。たとえばここで大爆発が起きたとしたら、どうする。その処理に人を回すでしょ。そうすると俺たちを探す人員が減り、俺たちは動きやすくなる」
「なるほど。でも、ほどほどにしとけよ。船が墜落したら話にならないから」
「そのへんは、経験と火薬の量ですよ」
アンガスは笑いならがら頭をかいた。額にはゴーグルがかけられている。
「さてと、少し移動してらここ爆破しますよ」
そいういと二人は移動を開始した。
「そこの二人何をやっている。」
アンガスとティランは後ろを振り向いた。銃口をこちらに向けた兵隊がこちらを見ている。
「両手を挙げてこっちにこい」
兵隊はそう指示を出したが、アンガスは手を後ろにして爆弾のボタンを押した。艦が衝撃によって揺れ少し傾いた。兵はよろめいていた。アンガスとティランは、その兵に襲い掛かりその場を後にした。
「ちょっと、火薬の量がおおかったかな」
アンガスはそういいながら、先に進んでいった。
艦は煙を出しながら航行している。多くの兵は火災の処理に向かっていた。
二人は丁度船体の中心部付近まで侵入することができた。そこは兵士の宿舎のエリアになっていた。
二人はその中の一部屋に入り、中にあった兵士の服を奪った。
アンガスはティランに話しかけた。
「まずは、船体の先頭部に向かい操舵室に向かう。操舵室から館長室までは直接つながっており、艦長を脅せば『煌玉』のありかがわかるだろう。そのためにも、君は堂々としていてくれ、あとは僕に任せてくれ」
アンガスは自信満々で話ていた。
中にはあのセリサ・ルージュと呼ばれた女性が『煌玉』を見つめたいた。目にはうっすらと涙を浮かべていた。
アンガスはティランに
「涙流している女性がいるな。服装からして艦長だろう。泣いているからといって情けをかけるな。こっちは帝都に着く前に脱走なくてはいないんだ」
アンガスは『風の妖狼』を召喚して中に突入した。ティランもその後に続いた
アンガスの狼が女性の喉元に牙をむく。
「悪いが、その『煌玉』を返してもらおう。拒否するならその狼がお前の喉を噛み砕く」
セリサがそっと話かけてきた
「そうね、あなたは『風牙の人形師』の名をもつ幻の『幻燈士』だったのね。幻の使い手に先制攻撃を許した時点でもう私の負けは明白。この場はいったん引きましょう。もっていけばいいわ」
セリサは『煌玉』を二人に投げた。アンガスはそれを拾い、ティランに渡した。
「悪いがその狼はしばらくそのままにさせてもらう。」
「どうぞ、ご自由に」
二人はその場をあとにしようとした。
「そこの刀剣をもったあなた、少しいいかしら」
ティランはセリサの方をむいた。そしてセリサが話はじめた
「あなたのその刀剣はいったいどこで手に入れたのかしら」
「しらん」
ティランは軽くあしらう。
「その刀剣に刻まれた文様は5年前に消滅した軍隊の物よ。簡単に手に入る物ではないわ」
「しらん」
ティランはそう言葉を言うと、その場を後にした。そのとき、セリサは悲しい顔をしていた。
二人は格納庫に向かって走り出す。出会った相手は力で突破していった。格納庫には『バロック』と呼ばれるライダー型の小型の船があった。
「早く、乗れ。これで脱出するぞ」
アンガスはティランに叫んだ。アンガスは『バロック』に乗り込んだ。そして、エンジンをかけた。駆動の音がだんだんと激しくなっていく。するとバロックは宙に浮き始めた。あとは、射出口から発射される風で方向を変更させていく。乗りこなすことは簡単にできる代物のため、さまざまな場所で活用されて、一般にも実用化されている。
ティランが乗り込もうとした瞬間、船体が大きな音とともに揺れた。
アンガスとティランは音の方向を振り向いた。大きな男が膝をついてその場にかがみこんでいた。
全体的には茶色の特殊部隊の軍服で、頭はドレットヘアーのような触覚が数本でていた。また、腕には大きな手の形をしたアーム、腕の部分には大きな車輪がむき出しになっておりまた肩口までに伸びる亜褐色の筒が手でいた。
「お前たちは、どうかな?このバルディアロスから抜け出た者はいない。お前らの実力、とくとみせよ」
そういうとバルディアロスはアームを二人に向けた。大きな蒸気が肩口から出ている筒から噴出す。次の瞬間、超高速にする突進の攻撃が二人を襲った。二人は間一髪、その場を逃れた。
「その武器、まさか・・・・・」
「ほう、これを見たことがある者がいたか。これは、太古に実在した武器を現代に蘇らせた物。名は『ドアクアロ』という。降伏するなら今のうちだ。さもなければ、お前らの未来は死あるのみだ」
「まさか、貴様か。『朱水のバルティアロス』か」
「ほう、俺の字まで知っているとは、貴様ただの鼠ではないようだな。」
「忘れるわけがねぇ。俺のギルドをつぶした男が」
「ほう、名前だけは聞いておいてやる。鼠よ」
「俺の名は・・・・」
アンガスが自分の名を叫ぼうとしたとき、ティランが手を伸ばしそれを静止した。
「アンガス。頭に血が上りすぎだ。ここでであったのも確かに何かの縁だな。今の状態でお前が戦えば、結果は目に見えている。ここは、俺にまかせろ」
ティランはそういうと、片手で大剣を構えた。
「誰があいてでもかまない。ただおぬしは、冷静な男とみえる。手は抜かぬぞ」
「あぁ、かまわない。」
ティランはそういうと、剣を構えた。バルディアロスの腕が伸びてくる。ティランはその腕を掻い潜り、逆の手に切りかかった。しかし、ティランの背中に激痛が走る。ティランはそのまま、バルティアロスの目の前を通り過ぎ、壁にたたきつけられた。つめたい地面の感触がティランを襲った。目の前には車輪と伸びたチェーンが見えていた。
「このバルディアロス。ただ突進だけが能かとおもったか。我が武器『ドアクアロ』はアームと腕の部分から飛び出す歯車によって戦う、いうなれば鎖鎌と同じよ」
ティランは起き上がると口から血の混じった痰を吐いた。
「そうだな。確かにあんたは強い。だが俺にはまだこれがあること忘れてもらっては困る。」
そういうとティランはポケットの中から青白く光る『煌玉』を取り出し、刀に組み込んだ。
「俺の本当の実力を知るときは、お前が倒れたときだ」
そういうティランは飛び上がった。そして、剣を横なぎに振りかざした。
「俺の剣よ 俺の魂に誓え 我らはともにいると さぁいまにしめせ 『白炎陣』」
青白い炎が剣先から鍔まで包み込んだ。バルディアロスは再びアームを構えた。肩口から蒸気が吹き出ている。バルディアロスが先に突進しはじめた。歯車とともにティランを狙っていた。
ティランは先に歯車を剣で捌くとその勢いを殺さずにアームを狙った。しかし、アームの勢いに負け再び、壁に激突した。ティランの奥底で何かが変わった。しばらく無言の静止の状態がつづいた。
「口ほどにもない、所詮この程度の男か」
ディアロスはそういうと、アンガスの方をむいた。
「さぁ、今度はおぬしの番だ。覚悟はできているか」
アンガスは指輪から狼を召喚していた。今までのような普通の狼ではなく、今度は自分の背丈ほどある大型の狼だった。
「あぁ、お前だけは自分がケリをつけなければいけない相手だからな。俺のギルドのメンバーの敵は自分がうつ」
「所詮は過去の人物。記憶にもないが・・・いいだろう相手をしてやろう。ただし、おぬしの命をかけてな」
ディアロスはそういうとアンガスにアームを向けた。
「アンガス!!貴様は下がってろ。こいつの相手は俺だ!!」
ディアロスの後ろから声がする。まぎれもない、ティランの声だった。額から血が流れていた。しかし、いままでと雰囲気がちがっていた。ティランの目の色がいままでは黒い瞳をしていたが、青い光を帯びていた。ティランは大剣の先を床に引き釣りながら近づいてきた。
「所詮は本気になれないこいつの甘さだ」
ティランはそういうと大剣を肩に担ぎなおした。
「ふぅ・・・」
ため息をひとつ付くとティランは体を起こした。いままでと雰囲気が変わっていた。そう、いままでは無口な男で愛想の悪さだけが目立っていたが、今はそれだけでなく、殺気がみちていた。
「今度は、俺があいてをする。」
ティランはそういうと、剣を片手で構えた。そしてもうひとつの手で印を結びはじめた。
「ほぅ、まだ気力があるとは、そのまま、気絶していればいいものを。その気合は無と帰すがいい」
ディアロスのアームがティランを襲った。
しかし、一瞬のうちにディアロスから血が噴出した。無数の切り傷が体中に起こっていた。
「『白炎斬技・舞』」
「おぬし、一体なにものだ・・・・」
ディアロスは倒れながらティランになげかけた。
「俺の真の名は『シルフ・ローレア』二つ名は『白炎の幻燈師』。」
ディアロスはすでに意識を失っていた。
「おぬしが・・・・・あの・・・・生き残りと・・・・いうのか・・・・勝てるわけが・・・・・ない・・・・」
ディアロスはかろうじて生きているといった状態で、すでに瀕死だった。ティランはその場にかがみこんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫か」
アンガスは近づいてきた。
「君はいったい・・・何者なんだ」
第二話終 第三話に続く